研究テーマ

Research Subject

私たちの研究室では、環境適応の起源である体内時計に焦点を当て、3つのテーマを柱とした研究に取り組んでいます。

    • theme 01
    • 「生物にとって時間とは何か?」を理解する概日リズム成立原理解明
    • theme 02
    • 不規則な生活はなぜいけないのか?Circadian Misalignmentによる恒常性破綻(概日リズム障害)の病態成立メカニズム
    • theme 03
    • ヒトの概日リズム評価法開発:ラボから社会へ

01「生物にとって時間とは何か?」を理解する概日リズム成立原理解明

哺乳類では、視交叉上核が概日リズムの中枢であり、中枢時計と呼ばれます。一方、体内時計は、視交叉上核のみならず、全身のほとんどの細胞にも存在します。さらに私たちは、培養細胞にも視交叉上核と同じしくみの体内時計が備わっていることを明らかにしました(Yagita et al, Science, 2001)。つまり、体内時計は正常な細胞なら普遍的に備わっている細胞機能です。しかし、哺乳類においては、唯一、生殖細胞に概日時計が無いことが知られています。そして、私たちは、多能性幹細胞であるES細胞やiPS細胞にも体内時計が存在しないことを見出しました。しかも、ES細胞やiPS細胞をin vitro(試験管内)で分化させると、細胞自律的に体内時計が正しく形成されていくこと、さらに分化した細胞をもう一度リプログラミングすることで概日時計が再び消失すること、を発見しました(Yagita et al, PNAS, 2010)。私たちの一連の研究により、「概日時計」と「細胞分化」が密接にリンクしていることが分かり、普遍的細胞機能としての体内時計を改めて考える契機となりました(Umemura et al, PNAS, 2014; Umemura et al, PNAS, 2017)。
 また、発生過程を通して分節時計から概日時計への時間秩序の劇的な転換が生じます。マウスES細胞やヒトiPS細胞などによる胚オルガノイドを用いて、この制御メカニズムや生物学的意義などの研究を進めています。

02不規則な生活はなぜいけないのか?Circadian Misalignmentによる恒常性破綻(概日リズム障害)の病態成立メカニズム

昔から、「規則正しい生活をしよう!」とか「不規則な生活はからだに悪い!」などと言われています。実際、シフトワーカーでは様々な疾患リスクとの相関があることが知られています。しかし、現在でも概日リズム障害の対策は未確立と言わざるを得ません。その理由として、「概日リズム障害」という病態の根本的な理解が進んでおらず、環境時間と概日時計の不適合による恒常性破綻の機序が未解明であることが挙げられます。
 私たちの研究室では、マウスなどを用いてヒトでは不可能な「実験動物の厳密なケース・コントロール研究(マウスコホート研究)」を通して概日リズム障害の病態成立プロセス解明に取り組んでします。これまで、我々のオリジナルの実験系として確立したマウスコホート系を活用し、長期にわたる概日リズムの撹乱によって生じる病態の一端を明らかにしてきました(Inokawa et al, Sci Rep, 2020)。このようなリバース・トランスレーショナル研究は、課題解決型研究では重要なアプローチですが、さらに、概日リズム・体内時計の本質的な原理の理解にも有用な知見を提供してくれると考えています。

03ヒトの概日リズム評価法開発:ラボから社会へ

我々の研究室では、環境適応を担う概日時計の不適合による病態(概日リズム障害)の発症メカニズムとともに、この恒常性破綻状態が不可逆になる前の「未病状態」でコントロールする予防的介入法の開発に取り組んでいます。それは、医療の対象となる前の状態で対処しなければ、回復に非常に時間がかかると言われているからです。
 その前提として必要なのが「ヒトの概日リズム生理学」を体系的に理解することです。概日リズムが正常なのか、あるいは異常なのか、その判定は容易ではありません。「個体機能としての概日リズムの恒常性破綻」とは具体的にどのような状態を指すのか、実は確立された基準はありません。そのため、私たちは、「ヒトの概日リズム制御系の評価」を確立するためのHuman Physiologyに取り組んでいます。
 これらの研究から得られた成果をもとに、実際に看護師さんをはじめとする交代制勤務者の概日リズム評価や未病状態の検出による予防的介入法の開発を進めています。これらの成果は、医療従事者のみならず、24時間社会を支える非常に多くの人々(多くがエッセンシャルワーカー)にも還元されるだけでなく、「健康経営」の観点から企業経営者にも貢献できるものと考えています。

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